Characters

登場人物

「神ノ禍」は群像劇であるため、かなりの人数が登場します。そしてこのページには、作中に名前が登場する人物ほぼ全てが載っています。

45人以上と、とんでもない人数になっていますが。とはいえ、身構える必要はありません。GOTほど面倒くさい話ではありませんので。

主要人物の欄には「More」のボタンが付いており、そこから詳細な情報を見ることができます。そして、そのボタンが欄内に無い人物は「主要人物ではない」となります。主要人物以外は、頭の片隅に留める程度で大丈夫です。

〈聖獣使い〉

ルドウィル・シャネム

 フリアベンスの息子であり、本作の主人公。不仲な両親に揉まれ、ちょっとだけ心が荒んでいる。なお、諸事情により第一巻には登場していない。
 好奇心旺盛な青年であり、一番の関心事は薬草。幼少期には、薬師であるユインメズンを度々質問攻めにして困らせていた。
 両親というよりかはリシュに似た性格を持っていて、かなりの個人主義者であり、あまり他者を信用していない。また規律や常識に囚われない自由すぎる性格であることから、母であるフリアとの相性が悪く、意見の相違からの衝突を繰り返している。

 成り行きで〈神護ノ十剣〉入りを果たしたルドウィルだが、しかし彼は少しだけ後悔していた。
 というのも、ルドウィルの憧れは薬師メズンだ。神国中を旅してまわり、研究に没頭するメズンに憧れているルドウィルは、本音を言うと剣士ではなく薬師になりたかったのだ。

フリア・シャネム

 〈炎ノ聖獣使い〉となった人物。第二巻以降は、貴族の子供たちに息子がいじめられたことを機に、すっかり心配性の母になってしまう。しかし心配がすぎて、息子から距離を置かれるようになる。
 鍛冶屋の娘である彼女は、父の後を継げるような一流の鍛冶師になることを夢見ていたのだが。しかし彼女の努力を父親は認めてくれず、結局その夢が叶うことはなかった。
 夫であるベンスの生活力の無さに頭を悩ませており、リュンと共に彼の尻拭いに追われる毎日を送っている。夫に対する不満が募り募って、近頃は喧嘩が絶えない。

 彼女にはもう、故郷に帰る理由が無い。それに故郷にある実家に戻ったところで、父親がいる限り、幼い日からの夢であった鍛冶師にはなれないと分かっている彼女は、故郷に帰りたくないとすら思っている。故郷に帰って夢を否定され続ける日々に戻るぐらいなら、王都で〈神護ノ十剣〉の隊員たちを支える日々の方がマシだと考えているのだ。

リシュ

 〈炎ノ聖獣〉である九尾の狐。姿を、子狐から成体へと自由に変えることができる能力を持つが、基本的には子狐の姿でいる。そして尻尾の先からは常に、モノを燃やさぬ実態なき炎をともしている。
 口が悪く、余計な一言を言いがちである。また嫌味な性格をしていて、皮肉も多い。子狐のような愛くるしい見た目に反して、まったく可愛くはない狐である。
 そんなリシュは、不仲な両親の間で板挟みにされているルドウィルのことだけは気にかけており、そしてルドウィルに対しては兄貴風を吹かせている。

 保守的で頑固なフリアと、大雑把で個人主義的なリシュは、意見の相違から度々衝突を起こしている。
 そしてフリアの息子であるルドウィルの性格は、かなりリシュに似ている。リシュはそんなルドウィルを可愛いと思う反面、フリアはそうでなく……そんなわけで毎日のようにフリアとリシュは揉めている。

スザン

 〈水ノ聖獣使い〉である人物。以前は旅の吟遊詩人としてフーガルという名の相棒と共に活動していたが、フーガルが殺害されたことを機に引退。今は〈水ノ聖獣使い〉以上でも以下でもない存在になっている。
 第二巻以降は、王宮と猛獣舎を行き来しつつ、〈神護ノ十剣〉の隊員たちから頼まれる雑用や買い出しを淡々とこなしていくような日々を送っている。
 臆病で引っ込み思案かと思いきや、大胆不敵な行動を取ってみたり、勇敢なことを言ってみたり、またある時は随分と達観したような態度を取ってみたりと、掴み所がない性格をしている。

 ひもじかった時代には戻りたくない、という思いが強かったスザンは、王都での生活を快く受け入れた。
 王都に留まっているだけで、王制が生活の保障をしてくれる。代償は自由な外出ができないことだけで、かといってガッチガチに軟禁されるわけでもない。……これ以上に最高なことがあるだろうか?

シク

 〈水ノ聖獣〉である一角獣。いつからかスザンと行動を共にするようになった存在。スザンもシクも、そうなったキッカケのような出来事はよく覚えていない。何とも奇妙な関係である。
 常に穏やかであり、落ち着いた印象を周囲に与えるシクだが。しかし非常に臆病であり、すぐに姿を消してしまうという特徴も持っている。
 体を透明化する能力を持っているため、まさに「姿が見えなくなる」のだ。
 ここぞという場面ですぐに逃げてしまうため、スザンからは「やや頼りない相棒」と思われている。

 スザンとシクは行動を共にする時間のほうが短い。好きな時に好きなところへ行き、気が向いたときにだけ一緒に行動する、それが彼らの鉄則だ。
 スザンはシクが日中にどこへ行っているのかを知らないし、シクもまたスザンが誰と会って何を話したのかを知らない。それでも仲違いすることなく、程よい距離感で共に在り続けている。

クルスム・ルグ

 〈風雷ノ聖獣使い〉である猛獣使い。ラムレイルグ族の族長ダグゼンの一人娘で、男よりも男らしいと称される性格の持ち主。豪胆であり、世話焼きでもある。
 いずれ族長を継ぐことになるだろうと期待されていたが、《光帝》後継者争いに巻き込まれたことがキッカケで辞退。幼馴染であり親友であるヌアザンにその座を譲った。
 義理堅い人物であることから〈神護ノ十剣〉の隊員たちから、そしてセィダルヤードからも信頼されている。また彼女は「美味い飯を作る」という理由からリスタをかなり気に入っている。

 最初こそ王都を嫌っていたクルスムだが、しかし彼女は王都に根を下ろすことを決意する。
 王宮で働くようになったというのも理由のひとつだが。一番の理由は「王都に胃袋を捕まれたから」だ。
 王都料理の虜になったクルスムは「マズい飯しか食えない山に帰りたくない」と思ってしまったのだ。

ウィク

 〈風雷ノ聖獣〉である白獅子。光のように早く走れる能力を持っているのが、滅多にその能力を使わないため、ウィク自身も忘れているフシがある。
 ラムレイルグ族の、そしてクルスムの影響を受け、かなりこざっぱりとした性格をしている。また個人主義的という共通項もあって、同じ聖獣であるリシュと仲が良い。シクとの関係はぎこちなく、メクとの関係は最悪である。
 主人であるクルスムのことが大好きで、そうそう滅多なことでも起きない限りは彼女の傍から離れようとしない。

 フリアとリシュとは正反対に、クルスムとウィクはかなり相性が良い。こざっぱりしていながらも世話焼きな性格の者同士、考えることがだいたい同じであるため、うまくいっているのだ。
 そしてウィクは端的に言うと、クルスムに惚れている。とにかくウィクは、クルスムから片時も離れたくないのだ。

〈神護ノ十剣〉

パヴァル・セルダッド

 元、暗殺者。国一番の剣豪であり、〈大神術師〉すらも恐れをなすほどの頭脳の持ち主であり、同時に大罪人である悪漢。神国に身を捧げることを条件に先代の〈大神術師〉から恩赦を受け、現在は「神国の猟犬」として活動している。
 ぷかぷかと空中に浮く水の玉から構成される、奇妙な龍神カリスを伴っていること。それと彼自身が隻眼であることから、近年は「独眼の水龍」と呼ばれることが多い。
 現在は、ワケあって借りがあるヴィディアから「無辜の民には絶対に手を出すな」と言い渡されているため、無辜の民には手を出していない……はずだ

 パヴァルは砂漠の騎馬遊牧民族「ソロゥラム」の末裔であり、セルダッド家は彼の三世代前までは砂漠で遊牧生活をしていた。しかし交易路の拡大によって自由に牧畜ができなくなったことを機に、北アルヴィヌへ移住。
 しかし「先祖帰り」したような特性を持っていたパヴァルは、定住と協調を強いられる街の暮らしに馴染めず、鬱屈してしまう。結果、歪んだ人格が形成され、今日に至る。

ケリス・シャドロフ

 パヴァルの入隊によって、大幅に在り方が変えられる以前から〈神護ノ十剣〉に所属している唯一の隊員。御前試合によってその地位を勝ち取った、最後の者。武ノ大臣も兼任している。
 パヴァルとは正反対で、堅物で融通が利かず、しかし誠実で、決して嘘をつかない実直な人物。さぞかし信用されている――かと思いきや、実はあまり信用も信頼もされていないという悲しい立場に置かれている。
 パヴァルという怪物じみた仕事人、そしてディダンという規格外の逸材によって、それなりに仕事はできるはずの彼の存在感が薄れているという現状がある。

 ケリスは、シャグライ族とラムレイルグ族の混血である。そしてケリスのような存在は、サラネム山において「禁忌」とされている。
 シャグライ族とラムレイルグ族の間には幾つかの「掟」があり、そのひとつが「異なる部族間での婚姻」である。ケリスの両親はその禁忌を冒したがために南アルヴィヌへと逃げたが、山からの刺客によって殺害される。そして彼らの子であるケリスは天涯孤独となった。

ヴィディア・ヘングラ

 生まれつき隻腕の武人。槍術において、彼女の右に出る者はいないと言われている。
 王都での生活も長いはずが、未だに故郷である南アルヴィヌの訛りが抜けていない。そんな彼女は朗らかな性格の持ち主で、〈神護ノ十剣〉の隊員たちの多くから、母親のような存在として慕われている。
 しかし普段の温和な雰囲気とは裏腹に、戦闘時は苛烈で峻厳になるらしいが、これはあまり知られていない。というのも、近年は戦うことも滅多にないからだ。
 現在は第二分家当主であるイゼルナの警護の任に就いている。イゼルナの「お忍び」にしょっちゅう付き合わされている模様。

 ヴィディアはかつて、それなりに幸せな日々を送っていたのだが。その生活をパヴァルにぶち壊された過去がある。
 そして彼女は、パヴァルの過去の行いを「許す」というカタチで、パヴァルに貸しを作っている。この貸しを利用して、彼女はパヴァルに幾つかの制約もとい誓約を課している。

ベンス・シャネム

 セィダルヤードの警護の任に就いている人物。元はラントによって拾われた南アルヴィヌの孤児だった(物心がついたときには既にひとりであった為、両親のことは何も知らない)。
 類まれな動体視力と俊敏さの持ち主で「鷹の目のベンス」の異名を持つ。身体能力も優れており、その能力を評価されて国の最重要人物であるセィダルヤードの護衛に抜擢された。
 しかし頭脳のほうは今ひとつ足りず、難しいことを考えること、そして理解することが苦手。そのため、度々ディダンに罵倒されている。

 ベンスという名は、パヴァルが名付けたもので、「寡黙な者」という意味を持つ。
 作中での表記は「ベンス」で統一されているものの、彼の本来の名は「ウェンス」である。しかし南アルヴィヌの最貧困地域の訛りが抜けない彼は、己の名を「ベンス」としか発音できない。なので現在は、本人の発音に合わせて周囲も彼のことを「ベンス」と呼んでいる。

リュン

 〈神護ノ十剣〉に所属していながらも、どういうわけか現在は酒場ギャランハルダで働いている人物。エレイヌの下で踊り子の修行をしながら、接客をさせられている。
 ベンスと同じく、元は南アルヴィヌの孤児で、ラントに拾われて〈神護ノ十剣〉に来たという過去を持つ。しかし待遇には雲泥の差があり、こちらは冷遇されている模様。ベンスがセィダルヤードの護衛役に大抜擢された裏側で、リュンはパヴァルから剣を握ることすら許されていなかった。
 現在でも扱いは大して変わっておらず、他の隊員たちからは「誰かが倒れたときの補欠」と認識されている。

 南アルヴィヌでくすぶっていた時代のリュンは、しかし悪い意味で有名だった。強盗殺人を繰り返す犯罪者「神速のリュン」として、その名が知られていたのだ。
 ラントに首根を掴まれて〈神護ノ十剣〉へと連行された後にリュンは、パヴァルによって自尊心を打ち砕かれ、結果として改心。また酒場ギャランハルダでの仕事は、更生の一環である。

ラント

 シェリアラの警護の任に就いている人物。人たらしな性格であり、宮中に知人が多い。従者たちと雑談していることも多く、よく「サボっている」とディダンに咎められている(しかし本人が言うには「情報収集の一環」とのこと)。
 能力そのものは平々凡々であり、秀でたところは何も無い。しかし、面倒事をのらりくらりと躱す才能だけは持っているため、波乱の宮中を生き残れている。
 ハエすらも殺せない人間であり、〈神護ノ十剣〉唯一の良心とも言われている。そんな人間性もあって、《光帝》正統後継者であるシェリアラの護衛役に抜擢された。

 彼の名付け親はセィダルヤードである。またラントという名前は、開国神話に登場する「英霊ラント」に由来している。彼が英霊ラントに似た容姿を持っていたため、この名前が与えられたのだ。
 そんなラントは出自不明である。本人も、自分の出生に関しては何も覚えていない。両親の所在も不明であり、どの地域の出身なのかすらも分かっていない。

リスタ

 出自不明であったり、シアル王家を思わせる容姿をしていたりと、秘密と謎に満ちた隊員……――ではあるのだが、そんなことよりも天然ボケ具合とドジっぷりが目立つ人物である。
 常にニコニコと笑っているが、これはパヴァルからの指示によるもの。やらかしや失言が重なり、「余計なことは何もせず、お前は黙って、ただ笑っていろ」とパヴァルにドヤされたことから始まっている。
 かつてはディダンに甲斐甲斐しく世話を焼かれていたが、現在は猛獣舎にて面倒見のいいクルスムウィクに可愛がられている。

 かつてリスタは賢く、察しも良く、機転の利く子供だった。しかし、ある時に負った怪我によって、現在の「ドジなリスタ」が完成した。
 右手の痙攣や色盲、注意力散漫といった後遺症を幾つか抱えており、身体症状に関してはパヴァルやユインから、日常で起きる細々とした障害についてはディダンから支援を受けている。

ファルロン・セス

 ラムレイルグ族出身の猛獣使い。山犬を主に使役する。典型的な「ラムレイルグの男」で、気さくで明るい人柄であり、第一印象は良い傾向にある。
 しかし短気かつ短絡的であり、貴族が大嫌いという特徴も持っており、王宮内で度々問題を起こしている。従者たちからの評判はめっぽう悪く、どちらかといえば嫌われている。
 またリスタとの相性が悪く、いがみ合いをよく起こしている。その影響で彼は、リスタを慕っているディダンを敵に回しており、第二巻以降は危うい立場に置かれる。

 ファルロンはリスタのことを「シアルの人間に似ている」との理由から嫌っている。初対面時に挨拶よりも先にリスタの顔面に拳を喰らわせたほど、リスタのことを嫌っている。
 リスタもその敵意に応えるように厳しい態度を取っているため、二人の関係は悪化の一途をたどっている。

ユイン・シャグリィアイグ・オブリルトレ

 サラネム山きっての変人メズンに育てられた薬師。しかし同郷の者たち曰く、ユインは「メズン以上にぶっ飛んでる」とのこと。
 衛生兵という名の下、〈神護ノ十剣〉らしい働きはしていない。また上官であるケリスからもパヴァルからも信頼はされていないため、そのテの仕事は振られることがない。仕事が割り振られたとしても、書類仕事が関の山。
 突然立ち止まったかと思えば道端に生えている雑草を凝視したり、野良猫と遊び始めたり。かと思えば、ある時には露天商と揉め事を起こしてみたりと、行動が予測不能。

 ユインはシャグライの族長一族に生まれた末子だったが、ある先天的特性を持っていたために疎まれ、幼少の時分に一族から追放されている。そのため、現在のユインは厳密に言うと「シャグライ族」ではない。
 一族を追放されたユインは、同じく一族から追放された身であるメズンに引き取られ、彼に育てられた。

ディドラグリュル・ダナディラン・ドレインス

 〈神護ノ十剣〉に三歳で加入したという経歴を持つ人物。呼称は「ディダン」。通称は「ドレインス家の悪魔」。
 いかにも西アルヴィヌ人らしい小柄な体格と、いかにも西アルヴィヌ人らしい強気な性格の持ち主。弁が立ち、頭もキレるため、とにかくタチが悪い。
 身体能力は高くとも知性は今ひとつな隊員たちの世話役を押し付けられることが多い。苛立ちながらも世話を焼くあたり、パヴァルとは違って人の心はある様子。
 第二巻以降は「大臣補佐官」として王宮で地道に働きつつ、武ノ大臣の座を虎視眈々と狙っている。

 ディダンは三歳の頃に両親を殺害している。それも「領民に圧政を強いている両親が許せない」という、義憤に駆られての犯行であった。そしてこの事件が原因で、ディダンは〈神護ノ十剣〉という檻に囚われることとなる。
 ディダンは今、領地の管理・運営は領民たちに委ねているが。しかし領地に手を出そうとする貴族たちの相手は、ディダンがしている。

エレイヌ

 パヴァルの養女で、酒場ギャランハルダの店主。「カレッサゴッレンの女帝」との異名を持つ。
 赤いものがとにかく大好きで、赤い服を着て、赤い靴を掃き、赤い葡萄酒を好んでいる。店の内装も赤を基調としている。
 ラントとは同じ環境で育った兄弟姉妹のような関係。また彼女は年下である〈神護ノ十剣〉の隊員たちや、その関係者たちのことを気にかけ、可愛がっている。表向きは、面倒見のいい姐御だ。
 しかし彼女には裏の顔がある。パヴァルという怪物に鍛え上げられた人物であるため、闇社会に慣れ親しんでおり、暗部に精通しているのだ。その知見と手腕を活かして、数々の情報工作を行ってきた。

 エレイヌとヴィディアは、パヴァルの罪に巻き込まれるかたちで逮捕されたことがある。それはエレイヌが八歳の時のことで、エレイヌらを逮捕したのはケリスだった。
 またパヴァルの共犯者としてエレイヌとヴィディアまでもが死刑に処されそうになったとき、それを止めに入ったセィダルヤードとは違い、ケリスは異議を唱えることをしなかった。そんなこともあってエレイヌは今も、ケリスに対して複雑な感情を抱いている。

シアル王家

セィダルヤード

 第一分家の当主で、当代の政ノ大臣。シロンリドスの落とし子として産まれた。赤子の頃に貧困街に捨てられたが、侍女長レグサに拾われたという過去を持つ。
 レグサが嗾けた政争に巻き込まれる形で、八歳の時に王家入りを果たす。が、その際に当時の《光帝》シェミルからの命令で全去勢をされる羽目に。そんな逸話のせいで「玉無し卿」という不名誉な仇名を得る。
 後に政争を利用して成り上がり、王制の乗っ取りに成功。父であるシロンリドスが遺した負の遺産を一掃するため、現在も齷齪と働いている。

 今でこそレグサに対して敬意を払っている彼だが、昔は違った。それこそ公然と、レグサを「クソババァ」と罵倒するほど嫌っていた。
 というのも彼は子供の頃、訳も分からぬまま王都へと連行され、レグサの邸宅に幽閉されたのだ。挙句、レグサの嗾けた政争に巻き込まれたが為に男性性を喪失する羽目になり……その恨みは計り知れない。
 因みに、今も彼はレグサを許してはいない。

シエングランゲラ

 セィダルヤードの娘とされているが、そうだと仮定したときに、色々と辻褄が合わなくなる謎の存在。しかし当人を始め、神国の者たちは彼女こそが「セィダルヤードの一人娘である」と信じて疑っていない。
 そんなこんなでセィダルヤードから気味悪がられ、敬遠されて育つ。父親に構ってもらえなかったこと、そのせいで宮中の者たちからも敬遠されるようになってしまったことから、グレてしまった。
 色々と拗らせた末、シアル王家という地位を捨てて神国軍の一兵卒となることを決意。そしてセィダルヤードに反旗を翻す。

 その昔、シエングランゲラには「フィグス兄妹」という従者が宛がわれていた。兄がジェンダン、妹がカリラである。
 この二人はサイラン自治領から奉公に来ていた者たちで、その「サイラン自治領出身」という項目が評価され、シエングランゲラのもとに配属されたのだ。
 サイラン自治領の者は他地域の政情に疎く、また気にしないという側面があるためである。

イゼルナ

 第二分家の当主。第二分家であるため《光帝》の継承権は持たないが、しかし《光帝》に求められる条件の一つである「肉眼で観測できるほど濃く刻まれた聖光ノ紋章」を額に持っているため、話がややこしくなってしまっている。
 とはいえ本人は《光帝》後継者争いに参加するつもりはなく、彼女の心配事は二つのみ。死んだことにされている兄のリストリアンスの行方と、未だ豊かな生活は得られていない民たちのこと、それだけだ。
 母親であるシェルティナに似て、度々「お忍び」という名の脱走をしている。

 イゼルナにはリストリアンスという名の兄がいる。彼女は兄のことを敬愛していた。
 けれどもイゼルナが八歳の時に、兄および両親は暗殺される。しかしイゼルナは今も、兄の死を疑っていた。というのも両親とは異なり、兄の遺体だけは見つかっていなかったからだ。
 またその事件について頑なに語ろうとしないセィダルヤードとパヴァルの存在が、イゼルナの疑念を揺ぎ無いものにしている。

シェリアラ

 シェリラシロンリドスの間に生まれた娘であり、《光帝》の正統後継者とされている人物。
 母親よりはマシだろうと期待を寄せられていたが、しかし父であるシロンリドスの影響を受け、歪な思想をどこか持っているフシがある。
 彼女が従者たちを見下すような態度を取り始めるようになってから、急速にシェリアラ待望論は勢いを失くし、そして彼女は宮中での信頼を失っていった。
 そうして孤独になったシェリアラは、寂しさの裏返しから浪費癖を加速させる。これが結果としてセィダルヤードを失望させた。

 《光帝》の座に就く者は、ハッキリと体に刻まれた「聖光ノ紋章」を保有している必要があるのだが、しかしシェリアラにはその紋章が薄くしか出ていない。
 そのためシェリアラには、《光帝》に相応しい人物ならばその姿が見えるはずの「幻獣サノン」の姿が見えない。しかしイゼルナは……?

シェリラ

 歴代最悪の暴君と評された、先代の《光帝》。第一巻では危篤状態にあり、第二巻以降は故人となっている。
 「幼いころはまるで言葉を扱えず、また理性もなく、まさしく服を着た獣だった」とのエピソードから、民衆からは「白痴皇シェリラ」と呼ばれ、嫌われていた。
 父であるシロンリドスに甘やかされた、または手に余る存在として忌避されたことがキッカケで増長。財源とは何か、ということを全く理解していなかったこともあって、金を湯水のように使う最悪の暴君が完成した。

ラルグドレンス

 先代の第二分家当主で、リストリアンスイゼルナの父。第一巻時点で、既に故人となっている。
 生まれつき足が悪く、車いすでの生活を強いられていたため、屋内に引きこもりがちだった。また身体障碍を背負っていたことから父であるシロンリドスによって「第二分家」に落とされ、活動的でない性格に拍車が掛かり、かなり暗い性格の人物であったとのこと。
 異母弟であるセィダルヤードの強気な性格を気に入っており、そして彼のことを信頼していた。

シェルティナ

 先々代の第二分家当主ルーフライアンスの娘で、リストリアンスイゼルナの母。第一巻時点で、既に故人となっている。
 無邪気で勝気、そして好奇心旺盛な性格をしていた。幼いころは相当なじゃじゃ馬だったとのこと。屋内に籠りがちなラルグドレンスを強引に王宮庭園へと連れ出したかと思えば、彼を連れて王宮の外に脱走するといった騒動を起こすことが多かったらしい。
 外界から来た存在であるセィダルヤードに興味を示し、それがキッカケで彼と親睦を深めた。

シェミル

 先々代の《光帝》。可もなく不可もない凡庸な女帝だったが、次代があまりにもひどすぎた為に今では『賢皇シェミル』と呼ばれている。
 贅沢好きが多いシアル王家にしては珍しく、高価で煌びやかな調度品や装飾品に興味を示さなかった人物で、質素な生活を好んでいたとのこと。潔癖としても有名で、在位当時は『変わり者の《光帝》さま』と言われていた。
 弟であるシロンリドスとの間にシェリララルグドレンス、それと死産した女子ふたりを設けた。また従兄のルーフライアンスとの間に、シェルティナも設けた。

 セィダルヤードを『純血ならざる卑しき者』と最初に呼んだのは、潔癖なシェミルだった。
 純粋でない血を残してはいけない、との理由で彼女はセィダルヤードの全去勢を命じたのだが。しかしこれは、王族でない者に手を出すという恥ずべき行いをしたシロンリドスを辱めるための命令だったとされている。

シロンリドス

 先代の政ノ大臣で、セィダルヤードの父。歴代最悪の《光帝》シェリラを野放しにしたどころか、増長させた張本人。また、圧政と搾取の方向性を打ち出したのは彼だった。
 シアル王家でない者たちに存在価値は無いという思想の持ち主で、とんでもない外道。純血でない息子セィダルヤードを西アルヴィヌのスラム街に捨てるよう指示し、その母親である侍女に暗殺者を差し向けたりもした。
 侍女長レグサが企て、セィダルヤードが実行した革命によって王宮を追われ、サイラン自治領へと逃げる羽目に。第一巻時点では存命しているが、第二巻以降は故人となっている。

 パヴァルという手札を手に入れたセィダルヤードが、真っ先に狙いを定めたのは父であるシロンリドスだった。それはシロンリドスこそが王制の腐敗、その元凶だったからだ。
 王制の腐敗、その源はシロンリドスが信じていた「神祖シサカの血脈」という思想。その思想の息の根を止めるために、セィダルヤードは「シアル王家」という特権を無くすことを決意する。

王宮関係者

〈大神術師〉

 皇帝《光帝》を凌ぐ権能を持つとされる最高司祭。事実上の最高権力者。当代はフワフワとした言動が多い、童顔で年齢不詳の男である。
 飾り気がない簡素なものを好み、贅の限りを尽くしたような王宮のことを嫌っている。また旅好きな性格も相まって、あまり王宮には滞在していない。

大烏メク

 当代の〈大神術師〉の足として、共に行動している大きな鳥。聖獣のように、人語を理解し、理性も持つ。また「主人なき〈闇ノ聖獣〉」を自称しているが、それを裏付ける証拠は何も無く、信憑性は無い。
 かつて砂漠に居たとされる駝鳥という種族に似ているが、しかしやたら毛むくじゃらであったりと、色々と違っている。

レグサ・エンゲルデン・ベルナファス

 王宮にて侍女長を務めている人物であり、ベルナファス家の当代でもある。王宮に仕える従者たちからは「陰の支配者」と呼ばれている。
 彼女に逆らえる者は王宮にはいないとされている。政ノ大臣であるセィダルヤードも、傍若無人なパヴァルすらも例外ではない。
 そんな彼女は、大改革の火付け役でもある。シロンリドスの横暴さ、シェリラの我儘っぷりに呆れていた彼女は、セィダルヤードという特異な存在に目を付けて……――というわけなのだ。

エディス・ベジェン

 王制の財源を管理する「資ノ大臣」である人物。元は王都のしがない露天商だったが、パヴァルから吹っ掛けられた賭けに負けたことがキッカケで、今に至る。
 セィダルヤード体制の要であり、彼女が落ちたときには王制も陥落するとさえ言われているほどの重要人物である。

ヤンダル・ガルト・ヴァルダス

 前神国軍司令官。そして罪人を裁く役を担う「法ノ大臣」である人物。しかしその権力は飾り程度のもので、実質的な働きは特にしていない。罪人の処罰等は現在、憲兵団が担当しているからだ。
 保守的な考えを持つ貴族ヴァルダス家の当代でもあり、いうなれば「保守層に配慮し、とりあえず登用した人物」でしかない。そのような立場も相まって、彼はセィダルヤードを良く思っていない。

ルディガンド・パンデモッダ・チャニラス

 公文書の管理や学舎の設立などを管轄する「文ノ大臣」である人物。ヴァルダス卿と同様に、「保守層に配慮し、とりあえず登用された人物」である為、彼自身はその立場に納得してはいない。
 しかし最低限の仕事はこなしている。また文献管理官といった下の者たちから、それなりに信頼されている模様。
 資ノ大臣ベジェンと相性が悪く、いがみ合う関係にある。

ダルトレイニアンス・ヴィネディガ・ユライン

 ユニの夫で、ユライン家の当代。憲兵団でひとつの師団を任されている軍人という顔も持つ。
 シアル第二分家と親交があり、リストリアンスの友人でもあった。現在も、イゼルナの様子を伺いに定期的に離宮を訪ねている。
 わけあってケリスを除いた〈神護ノ十剣〉の隊員たち、特にラントのことをひどく嫌っている。また一時はある誤解から、ユインのことを追いまわしていた。

ユニ・ヴィネディガ・ユライン

 ダルラの妻で、出自不明の人物。ユインと瓜二つの顔をしているが、しかしシャグライ族の者ではなく、サラネム山とは何の関係もないらしい。
 だがユインとはやけに親しい。
 第一巻では失踪していた彼女だが、第二巻では無事に見つかり、ダルラのもとに帰っている。尚、夫婦仲は良いとのこと。  

ロンディン・ウェルザポ

 離宮に住まうイゼルナ付きの怪力侍女。思い込みが激しい人物で、自称「ユインの許嫁」。山からある日突然居なくなったユインを探して、王都までやってきた。ユインを山に連れ戻すと息巻いている。
 ユインを守るために、パヴァルによってロンディンは離宮に隔離されたのだが。彼女はその事実を知らず、職を斡旋してくれたとパヴァルに感謝すらしている。
 なお許嫁という事実は無い。ユインの兄ヤムンに良いように転がされているだけだ。

フィグス兄妹

 シエングランゲラのもとに近侍者として、かつて配属されていた兄妹。兄がジェンダン、妹がカリラである。
 兄のジェンダンは、手際が良く要領も良いが、臆病で心配性すぎる人物。妹のカリラは鈍臭いうえに空気が読めないものの、大抵のことでは動じず、また大胆不敵な傾向のある人物。
 この兄妹は、お転婆だった幼いシエングランゲラによって散々に振り回されていた。また、幼いシエングランゲラがしょっちゅうシェリアラの居室に逃げ込んでいたことから、シェリアラの警護担当であるラントとの接点が少なからずあった。
 シエングランゲラの王家離脱を機に、故郷に帰っている。

 シアル王家の者に近侍する者のことを「侍女」と呼ぶ。これは女性の王族にのみ侍女が付き、また侍女は女性のみと決まっているためだ。
 ジェンダンのような男性の近侍者は、後にも先にも彼ひとりだけ。というのも当初は妹のカリラのみ登用の予定だったのだが、しかしカリラが「兄と一緒でなければ近侍は絶対にやらない」とゴネたためだ。

サイヴァル・リャクー・ソルレダイド

 北アルヴィヌ総督であり、アルヴィヌ領の実質的支配者であるソルレダイド家の当代。野心家であり、目的の為ならば手段を選ばないことで知られている。
 財産のみを信じ、損得勘定に生きる北アルヴィヌ人らしく、生粋の無神論者。光明の女神シサカの血を引くというシアル王家の伝説は信じておらず、シアル王家は「対等な立場にある商売相手」または「いずれ打ち倒せるもの」と思っている。
 北アルヴィヌに流れ着いていたソロゥラム族の末裔たちをよく思っておらず、「蛮族は砂漠に戻れ」との思想を掲げている。そのため、彼はこの思想に異を唱えているセィダルヤードのことを敵視している。

 北アルヴィヌ人によって、土地と財産を奪われたソロゥラムの末裔たちは砂漠へと追いやられ、そこで盗賊と化すことに。交易路の安全が損なわれたことによって近年は北アルヴィヌの景気も悪くなりつつある。
 セィダルヤード卿が危惧していたのは、まさにこの展開だった。

マルディス・エルレント・ディセイラ

 ドレインス家没落を機に台頭した西アルヴィヌの旧家ディセイラ家の当代。傲慢な人物であり、他者を「己のためにある道具」としか思っていないフシがある。
 領民に対して、独自に設けた過酷な税を課していることから、セィダルヤードに非難され続けているが。純血ならざる王族であり、且つ貧困街の出身であるセィダルヤードの言葉など聞くに値しないとして無視し続けている。
 第三巻以降はソルレダイド卿ケルン卿と手を組み、打倒セィダルヤードを目指して暗躍する。

 塩田事業で成り上がったドレインス家は以前、西アルヴィヌ地域の約半分を支配していた。しかしディダンが起こした事件によってドレインス家に混乱が生じ、そして混乱に乗じて領地の一部は他の貴族に強奪されてしまった。
 そしてドレインス家の領地を最も多く奪い取ったのが、ディセイラ家だった。

アグレイエンス・アニートン・ケルン

 ブルサヌ三大名門のひとつ、ケルン家の当代。シロンリドス時代には王制と手を組み、暴利を貪っていたのだが、後にセィダルヤードパヴァルによって「金蔓」を次々と潰され、面子を潰されてしまった。
 セィダルヤード体制に移行したことによって利を得たベルナファス家ユライン家とは異なり、ケルン家はすっかり落ちぶれてしまったことから、アグレイエンスはセィダルヤードのことを強く恨んでいる。
 第三巻以降はソルレダイド卿ディセイラ夫人と手を組み、打倒セィダルヤードを目指して暗躍する。

 王都にはシアル王家と特に深い関係を持つ旧家があり、それらは「ブルサヌ三大名門」と呼ばれている。ベルナファス家、ユライン家、ケルン家の三家だ。
 しかしセィダルヤードの改革以降、ケルン家は意見の相違を理由にシアル王家と疎遠になっている。

リノス・ベント・フェルデ

 神国軍司令官である人物。槍の名手、そして清廉の士として知られている。
 好き放題に振舞うシエングランゲラによって神国軍内部が引っ掻き回されている現状を憂いており、その状況を解決すべく索を巡らせているのだが。シェリアラ、そして有力な諸侯という後ろ盾を持つシエングランゲラに対して思うように手が出せず、苦心を重ねている。
 前神国軍司令官であり、現在の法ノ大臣であるヴァルダス卿との間に因縁がある。また彼女は、信念なき人斬りであるパヴァルのことをひどく軽蔑している。

 神国軍とは、ざっくり言うと「王制が保有している軍事力」のこと。治安部隊である駐屯兵団は配置された土地から離れず、近衛兵団である〈神護ノ十剣〉は王宮から出ることは無いが、神国軍はいざという時に戦地へと赴く役を担う。
 しかし近年は戦争も起こらないことから組織の形骸化が進み、内部が腐敗。幹部たちが怪しい動きを見せるようになった。

サラネム山

ダグゼン・ルグ

 ラムレイルグ族の族長であり、クルスムの父。病によって夭折した妻タルスラに代わって、男手ひとつでクルスムを育て上げた。
 サラネム山の代表者であり、サラネム山と外部との交渉を一手に引き受けている。また「鷹紙飛ばし」の技術を広め、主要地域に担当官を派遣する決定を下した人物でもある。
 王都およびシアル王家との関係改善を目指しており、外界との交流や貿易を段階的に広げていこうと腐心しているが、変容を拒んでいる山ノ民たちが多く、同胞から糾弾されることも多い。

ラズミラ・セス

 王都に派遣された「鷹紙飛ばし」の担当官である、ラムレイルグ族の鷹匠。猛獣舎に駐在している。ファルロンの実妹であり、ユインの親友。
 相棒である鷹メルデスと共に仕事をしながら、リスタに鷹狩りの指導も行っている。兄とは異なり、リスタとの関係は良好である模様。
 朗らかで、底抜けに明るい人柄であり、王宮でも従者たちから愛されている。しかし自主性がやや欠けていることから、パヴァルに叱責されることが多い。

ヌアザン・サジュ

 山を離れたクルスムに代わって、ラムレイルグ族の族長を継ぐことになった人物。山獅子や山犬、猫など、雑多に扱う猛獣使い。
 鞭といった道具は使わず、指笛と掛け声のみでの使役を行う。そのため獣から舐められることも多く、度々大怪我を負っている。
 山犬に噛み千切られて左腕を失くしているのだが、しかしそれで懲りることもなく、今も道具を使わない使役法を続行している。その根性に感心した〈大神術師〉は彼に、意のままに動かすことができる鉄製の義手を贈った。

ガムスン・サジュ

 ヌアザンの父であり、ラムレイルグ族の族長補佐役である鷹匠。ラズミラの師匠でもある。
 山の代表者であるダグゼンの右腕であり、ダグゼンと共に各地へ赴いたりもする。また、外部へ書簡を飛ばしたり、外部からの書簡を受け取るのは彼の役目である。
 お人好しであり、何事も断れない性格が災いして、メズンの使い走りをやらされることも屡々。シャグライ族との間に起きた諍いの仲裁役を押し付けられることも多い。ガラの悪い隊商の用心棒たちの相手を任されることも多々あり。……そんなこんなで、彼は「山の便利屋」と化している。
 彼の鷹が神国中を忙しく翔け回っているように、鷹の主人である彼もまた山の中を忙しく駆け回っている。

メズン

 ワケあってシャグライ族を追放された薬師。ユインの叔父で、ユインの育ての親でもある。
 保守的であり排斥思想の強いシャグライ族の出身ではあるが、メズンはその真逆。外界に興味津々で、ちょくちょく旅に出ている。また旅先で見つけた怪我人を救うことも多く、パヴァルも彼に助けられたうちの一人であったりする。
 薬草に人体、歴史や伝承、最新の技術や最新の噂話など、興味の幅が広い。ただし優しさや思いやりは今一つ足りず、ひとを顎で使いまくる傾向にある。

ヤムン

 シャグライ族の族長一族に生まれた長子で、次期族長になるとされている。イェガンユインの兄。
 その性格は「シャグライ族のイヤな側面を全部詰め込んで、ギュッと凝縮した感じ」と形容されることが多い。排他的であり、陰湿で粘着質、敵と見定めたら容赦しない等、邪悪そのもの。ラムレイルグ族からは嫌われている存在である。
 ユインはこの厄介な兄によって、山を追い出されている。また里に残っているイェガンは、この兄にいつ危害を加えられるかと怯えながら、日々を過ごしている。
 クルスムウィクとの間に因縁がある。そしてウィクは彼の右腕を奪っている。

イェガン

 シャグライ族の族長一族に生まれた次子。ヤムンの弟で、ユインの兄。
 シャグライ族らしくない性格の持ち主とされている。が、自由人な叔父のメズンとはまた違う。臆病だが優しく、そして気が強くないのだ。
 幼少期は、兄ヤムンの天敵であるクルスムによくくっついていた。その関係でラムレイルグ族に逃げてくることも多く、ラムレイルグ族に知り合いも多い。が、次第に兄ヤムンからの虐めが苛烈なものとなり、里から出ることはおろか、里の中を自由に歩き回ることもできなくなり、引きこもりがちになる。
 以後、息を潜めるような生活をシャグライの里で送るのだが。ある事件を機に、シャグライ族の族長代行となることに。